夢は大きく歩みは手堅く

トリハダ代表 野島優一のブログ

生まれて初めて対面した異国のサイボーグは、テクノロジストであるとともにテクノロジーそのものでもあり、そしてアーティストであり哲学者でした。

サイボーグって実在するんですね。

 

12月13日と14日、頭にアンテナを植え付けたサイボーグ(ウソではなく事実を書いてます)のNeil Harbissonさんが来日するイベントがありました。イベントから2週間も経ってしまいましたが個人的レポートです。heapsmag.com

追記: HEAPSさんからもレポート記事が出たので貼っておきます!動画もコントリビューター紹介も載ってて内容モリモリです。僕も載ってます。いぇーい。ありがとうございます。

heapsmag.com

(追記終わり)

僕はコントリビューターと呼ばれるボランティアスタッフをして参りました。出演者の弁当やタクシーの手配から各種会場設営、そして最後はトークイベントの通訳まで! 友達同士の会話ならいくらでも通訳やったことあるけど、お客さん多いと緊張しますねぇ。。。でも何とかなりました。


Neilは後頭部にガチでアンテナを植え付けており、正真正銘のサイボーグです。カギカッコなしのサイボーグです。もともと色盲で、色を音で感知できるようにアンテナを付けたそうです。アンテナの先で色を読み取り、それを音に変換し、その音を骨伝導で聞くという仕組み。彼はTEDの本家イベント(TEDの後ろに「x」が付いてないやつ)やらBBCのインタビューやらで数年前から世界的に知られるようになっているので、詳細は以下にて。TEDは日本語字幕も出せます。

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近い将来、人間としてどう生きるかではなく、生き物としての生き方を選択する時代が来る

個人的な気づきをまとめます。
Neilはサイボーグとして様々な活動をしていますが、新しい概念や考え方もいくつか提示しています。そのうち一番印象に残ったのが上記見出しの内容でした。

彼のアンテナは、動物の触覚、つまり主に昆虫の頭部から出ているアレに着想を得ているのだそうです。人間になくて他の生き物が持っている身体機能を人間に移植したわけです。

これから技術の発展が進むと、次々にそうした機能移植というか身体移植みたいなことが可能になっていくと考えられます。実際にNeilの周りには、地震の波動を足裏で感じられるなど、色覚アンテナ以外にも何人かのサイボーグさんが既に存在しています。最近技術系のニュースで時々出てくるBrain-machine Interfaceという言葉がありますが、これはBrain = 脳とMachine = 機械を接続する技術や機器のことを指します。脳もつまるところ電気信号で動いているので、脳と機械を直接接続し通信させることで、感覚を刺激したり記憶を管理したり、みたいなことができつつあるそうです。これも詳しくはネットに色々出てるのでレッツ検索。

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こうした技術がさらに発展すると、地球上の様々な生き物の能力や部位を人間に植え付けることができるようになります。その時、我々人間は「人間としてどう生きるか」というよりも、「生き物としてどう生きるか」を選択でき、それについて考える時代が来るわけです。こうやって様々な生き物を組み合わせたり組み換えたりして生きることを「transpecies」と彼は呼んでいるそうです。たぶんこれも造語。極端な想像をすれば、胴体と頭は人間、触覚は昆虫、嗅覚は犬、視覚は鳥、手足はゴリラ。そこに植物の光合成機能を加えて…といった具合に、世の中に存在する機能や身体部位を自分の好きなように取り入れて生きることができるかもしれません。Google人工知能にオリジナル画像を作らせたらずいぶんと気持ち悪いもの(あえてプレビューなし)ができていましたが、あんな風に変な世界も実現可能になるかもですね。

Neilがイベントで話していたことを付け加えると、我々人間はたまたま人間として生まれてきたが、世界にはたくさんの種類の生物がいる。そもそも古代はバクテリアみたいな微生物しかいなかったがこうして進化してきていま人間がいる。そうやって視野を広げて考えれば、人間という枠ではなく生き物という枠でどう生きるかを考えるのはおかしなことではない、というようなことも言っていました。

目からウロコでした。

 

その他、彼が話していた内容のメモ

10年以上サイボーグとして生きてきてるだけあっていちいち深いし面白かったです。

  • 色盲は人間にとっては欠陥とされるが、他の動物にとっては必ずしもそうではない。つまり、生き物全体として考えたとき、能力の有無は優劣ではない」。これは上に書いた話にもつながりますが、言われてみれば本当にそうだなと。なんか反省。
  • 「アンテナはインターネットにもつながっている。NASAとのプロジェクトもあり、国際宇宙ステーションともつながっている。こちらから情報を宇宙空間に送ることもできるので、物理的に体が宇宙空間に行くastronaut = 宇宙飛行士に対して、sensetronaut と呼んでいる」。へえぇ。いいないいな。sensetronaut は造語っぽいのでカチッと訳すのは無理ですすいません。
  • 「このアンテナはAIではなくAS = Artificial Sense = 人工感覚である」。人間が持っていない感覚を人工的に与えているということ。聞きなれない言葉なのでこれも彼が提示している新しい概念かもしれません。
  • アンテナは何度かアップデートというか追加開発がされていて、今では赤外線や紫外線も感知できるのだそうです。つまり一般的な人間の能力を既に越えています。色盲だけど健常者が見えない色も見える。言葉にすると矛盾してしまいますがそういうことのようです。
  • 「アンテナによって、色盲の人でも色を識別することができる。これはVRでもARでもなくRR = Revealed Realityである」。このRRもおそらくオリジナルの概念で、めっちゃ訳しにくくて通訳のときも悩みました。言うなれば「見えないものを見えるようにした世界」、あるいは「感じられないものを感じられるようにした世界」のことです。加えて彼が指摘していたのは、この世にないものを感じられる世界では決してなく、既にこの世に存在するけど知覚できなかったものを知覚可能にした世界、ということです。確かにNeilにとっての色もそうで、新しく生み出されたものではない。なるほど。あーー世界観広がっていく。
  • 「今後の活動のキーワードの1つはアート。他の人が感じられないことを感じて表現できるから」。なるほどなるほど。彼の活動も生き方もすでにアート感ある。
  • 次のプロジェクトでは時間の感じ方を変えようとしてるそうです。頭に時計を埋め込んで、24時間で針が頭を一周するみたいなこと言ってました。何それあはは。もうついていけないっす。

 

ということでなんかとんでもない人に会って交流するというめちゃ貴重な経験をしたのでした。いま振り返ってみて、彼とパネリスト&100人以上の聴衆の間に入って通訳をしたというのは結構な大役だったなとw。でもおかげで彼のプレゼンとパフォーマンスを間近で観ることができ、誰よりも強烈な印象を受けることができました。

さらに13日はNeilと2組のアーティストとのコラボパフォーマンスもあり。ビートボックスアーティストのKAIRIさん、それからトラックメイカーグループのCLATさん。どっちもカッコよかったなぁ。

こちらがKAIRIさんのPV。ヒューマンビートボックスは結構好きだったけどこれはエグすぎてビックリ。とても生身で出してる音とは思えなくて、もうなんかサイボーグよりサイボーグ感あります。

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さらに14日は、池上高志さん、和田永さん、青木竜太さんとのパネルディスカッション。池上さんはたまたまICCでの展示作品を見ていたのでお会いできて嬉しかった。ロボット研究で有名な石黒浩さんとの共作で、文化庁メディア芸術祭の受賞作品でした。和田永さんは古い家電を楽器に改造するプロジェクト「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」で有名なアーティストで、先日そのイベントも観に行ったばかりなのでテンション上がりまくり、でも上がりすぎてチキって声かけれずという失態ぶりでした。別途連絡してみます。

他のコントリビューターさんも面白い方ばかりで、これから一緒に活動したり企画を作ったりできそうな方も。面白い場には面白い人が集まるんですね。これは忘れないようにしようと思います。

Neil、HEAPSの皆さん、コントリビューターの皆さん、そして関係者の皆さん、ありがとうございました! これからもよろしくお願いします。