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トリハダ代表 野島優一のブログ

例の問題の最中にDeNA創業者南場さんの『不格好経営』を読んだ感想

読もう読もうと思いつつ後回しになっていた(たくさんの本のうちの一冊である)本書、このタイミングで読みました。面白すぎて一気に読んでしまった。そして何度吹き、何度ウルッときたことか。南場さん文章上手すぎませんか。箇条書きですが以下感想。一部引用しつつ。

・どんなに輝かしい業績を持つ会社だって実態はカオス、というのはよくある話だと思いますが、DeNAもそうなんですね。ありえないような失敗談がたくさん、それも赤裸々に書いてありました。納品直前のシステムがコード0行とわかったとか、他社と提携してリリースしたシステムに障害があってすぐ引っ込めたとか、海外の買収先の会社に全然予定通りにモノを作ってもらえなかったとか。よくこんなの乗り越えてここまで来てるよなすごいなという印象です。

・所詮中身のない携帯ゲーム会社だろ、美しくない、という意見をよく聞くし、僕もそう思っている部分がありました。特にソーシャルゲームコンプガチャ問題で世間を騒がせたときのイメージがあまりにも強い。ところが、これ読んである程度は印象が変わりました。確かにゲーム事業が成長の中核をなしてきたのだと思いますが、そもそも最初はネットオークション、特にモバイルオークションが大当たりして上場しています。その後世間に一気に知られるようになったのがモバゲーだったんですね。上場後の話です。あとカスタマーサポートには相当力を入れているようです。モバゲーが出会い系扱いされて問題化していたようですが、その後の取組の成果はめざましい。ガチャの件の対応は、既に社長を後退していたということもあってか、あまり紙面が割かれておらず残念でした。

・創業メンバーだった川田氏についてのこの文章がとても響きました。

誰よりも働く、人を責めない、人格を認める、スター社員に嬉々とする、トラブルにも嬉々とする。そして、俺は聞いていない、バイパスするな、などという言葉も概念もいっさいない。とにかく一歩でも、ちょっとでも前に進むことしか考えない。 

なんと清々しい。自分がこれまで一緒に働いた人の中には、これにとても近い人もいればかけ離れた人もいました。どちらと働いている時に仕事がうまくいったかは言うまでもありません。自分もこうあろうと思います。

・自社のトラブルで迷惑をかけた某大手に謝罪に行ったら、もちろん怒られたけど終始冷静で、最後は前向きな話に持っていってくれた、という話がありました。

何かをやらかした人たちに対する対応は、その会社の品性が如実に表れると感じる。

これもその通りだなーーーと。これは会社同士の関係にも人間関係にも当てはまると思います。1つ前の話とも重なりますが、問題を起こした人に対して人格攻撃をする人とは、正直に言って付き合いたいと思いません。そういう人は周囲もどんどん離れていって、誰からも好かれないのでは。結局損をするのは本人だと思います。人格攻撃をしても問題は解決しないし誰も幸せにならない気がするんです。そんなことしてる暇あったら冷静に前向きに、起こったことに対して協力して対処することを考える方が100倍生産的だと思います。気をつけようと思います。

・前々から思っているのですが、経営者も人間なんですよね。それは南場さんも同じじゃないかなと読んでいて思いました。部分部分では世の中の人の平均よりも能力が高いのは確かだと思うのですが(そもそもビジネス経験がハンパないので当然ですね)、やっぱり最初はたくさん失敗しているし、その度に挫けそうになりながら、色々な人に助けられて、泥臭く泥臭く頑張ってなんとか踏ん張って再起していく。結局順風満帆に進む人生も会社もないのだと思います。

許されるなら孫正義さんの鞄持ちをしてみたい。(中略)私と同じ24時間しかない1日をどうやって過ごしているのか、時間配分だけでなく、パソコンのデスクトップに何を置いているのか、独り言は言うのか、ゲームは何をやっているのかなど、いろいろ関心がある。

これって、一般人が有名人に対して思うことと全く同じだと思うのです。それこそ南場さんに影響を受けた社会人は南場さんに対して全く同じことを考えていると思います。だからこの「自分よりすごいと思っている人の行動や考え方を詳しく知りたいという気持ち」は有名経営者であってもそうでない庶民であっても同じだと思います。これは庶民としてはとても勇気の出る話だし、前向きになれますよね。その意味でこの思いをぶちまけてくれた南場さんに感謝したいです。

DeNAで模範とされている仕事への姿勢に「自分の仕事に対するオーナーシップと思考の独立性を自然に持ち合わせている」というのがあるようで、これもとても大事だなと感じます。僕の場合は、ある時から仕事でこの感覚を強く持てるようになり、同時に、それまでの人生がウソのように仕事が楽しくなり、成果も出て、評価もしてもらえるようになりました。責任感も自然に適度に生まれて、なんというかすごく健全な状態で仕事ができるようになったのを覚えています。その時は環境的な要因が大きく作用してこの感覚に至ったのですが、思考も行動も自分に独立性が認められているというのはとてもワクワクするし頑張れるものです。会社としてそういう環境を作るのも非常に大事なのでしょう。

・最近話題になっているメディアサイトの問題と絡む部分として書き留めておきたいのは、現社長である守安さんの「任せる勇気」について言及されていたこと。これを南場さんは高く評価しているようでした。僕個人も、組織の行動のスピード感や現場のオーナーシップを高く保つためには、現場への権限委譲はかなりの度合いで行うべきだと思うので、この方針には賛成だなと思いました。ただ、問題になった例のメディアサイトの運営ではこれが裏目に出てしまったということではないかと思います。各種報道でも「社長の守安氏はマニュアルの内容を把握していなかった」という点が取り上げられたりしていますが、これは大規模の会社であれば当然の話だと思うのです。

それは決して無責任なのではなくて、その内容まで含めて事業の責任者や現場の人間に「任せ」て、その上で問題が発生した場合の最終責任は社長である自分が負う、という形の責任のとり方として十分にアリではないでしょうか。むしろ守安さんが各事業の現場のマニュアルをいちいちチェックしていたら、もっと重要な経営判断の仕事がおろそかになりえます。それだけでなく、事業責任者や現場の人間は「自分たちは社長に一切信頼されていない」という印象を持ってしまう可能性もあり、それは彼らのパフォーマンスを著しく下げます。会社の中核となるようなマニュアル、例えば小売業で全店舗に適用するもの等であれば社長が見るものかもしれませんが、今回はそうではない。見ない場合のリスクも全部わかった上で現場に任せていたはずだし、その方針自体は正しいと思います。そして事実、社長はじめ経営トップの3名が記者会見を開いて謝罪し、対応を発表し、社長は減給も申し出るという形で責任をとっています。起こったことは僕もヒドいものだと思うし、この対応だけで許されるわけでは全くないけど、現在のところしかるべき対応はとっているというか、筋は通っているのではないでしょうか。(ていうか記者会見の映像見てたら守安さんを尊敬する気持ちと南場さんに対するいたたまれない気持ちが猛烈にこみ上げてきて泣きそうになったんですが皆さんどうだったのでしょうか…)

DeNAの内情について詳しくない人間が勝手なことを書いてはいけないかもしれませんが、今回の問題の要因になったのはごく一部の人達だけなのではないかという気がしています。第三者委員会では企業風土なども含めて原因の究明を行うようですが、少なくとも本書を読む限り、企業風土はむしろこういった問題を起こす可能性が低いものではないかと思います。過去にゲームで何度も社会問題化した経験は確実に活かされている印象を受けます。知的に優秀で仕事に熱心な人が集まる会社であることは間違いないと思いますので、誠実な対応で再起を図ってくれると信じています。

 

注: この記事は元々noteに載せていたものをタイトルを少し直して掲載しています。